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掲載日:2022.03.31

mRNAワクチンをめぐる特許事情

途上国への供給拡大などを目的にした新型コロナウイルスワクチンに関わる特許の一時放棄について、米バイデン政権が支持を表明、モデルナ社も特許権を行使しないと発表しました。一方でファイザー社や日本製薬工業協会は反対するなど、一時放棄については議論が続いています。では、実際に新型コロナワクチンにはどのような特許が関わっているのでしょうか。今回は、日本で認可されているmRNAワクチン関連の特許や権利関係について紹介します。

1.mRNAワクチンに関する特許

mRNAワクチンとは核酸ワクチンの一種で、ウイルスのタンパク質の一部をコードしたmRNAを脂質ナノ粒子に封入して用います。これが体内に注入されると、細胞内にmRNAが放出されタンパク質を合成。細胞外で免疫反応が起き、人体は免疫を獲得する仕組みです。

〈mRNAワクチンの仕組み〉

核酸ワクチンにはこの他に、無害のウイルスの殻にmRNAを封入して用いる「ウイルスベクターワクチン」、ウイルスのタンパク質の一部をコードしたプラスミド(環状)DNAを用いる「DNAワクチン」があります。

〈核酸ワクチンの分類と特徴〉

パンデミックの早期収束に向けて、世界全体でこれらのワクチン開発・供給が求められています。そのため、例えばモデルナ社は2020年10月、ワクチン開発中の他社に対し、自社が保有する新型コロナウイルス感染症関連の特許権を行使しないと発表。ウイルスベクターワクチン、mRNAワクチン、mRNA合成に関する7つの特許権を公表しました。

〈mRNAワクチンをカバーする特許〉

しかし、これらの特許権だけで実際にワクチンを製造・販売することができるとは限りません。mRNAワクチンは低分子の医薬品と異なり、mRNA安定化の基本特許、脂質ナノ粒子に関する特許など、多数の特許が必要となるからです。
その中でも特に重要な「mRNA安定化の基本特許」、「脂質ナノ粒子(LNP)に関する特許」の2つについて解説します。

2.mRNA安定化の基本特許

分解されやすい性質を持つmRNAは、通常、体内では炎症反応を起こしてタンパク合成されることはありません。しかし2005年、ペンシルベニア大のカタリン・カリコー博士、スーザン・ワイズマン博士が、mRNAを構成する物質「ウリジン」を「(メチル)シュードウリジン」に置換すると炎症反応を抑制できることを発見しました。

〈基本特許の出願状況〉

初の特許出願は2005年8月23日の仮出願をもとにするもので、米国ではUS8278036として成立しています。このUS特許の成立した権利範囲は「哺乳動物細胞を誘導して目的のタンパク質を産生させる方法であって、前記哺乳動物細胞をインビトロで合成された修飾RNAと接触させることを含む方法」であり、修飾されたRNAを用いるとほとんど該当するほど広範囲です。一方、欧州では、米国に比べて限定的な範囲で成立しました。ちなみに、当時はあまり注目される技術ではなかったことから、日本や中国での出願はありませんでした。
世界に広く出願されているのは、2009年12月7日の仮出願を元にしたものです。欧米や日本、中国など世界約20カ国で出願されています。なお、日本で成立している範囲は欧州の範囲よりもさらに限定的なものとなっています。

次にライセンスの流れを紹介します。

〈ライセンスの流れ〉

権利はまず、発明者のカリコー博士とワイスマン博士からペンシルベニア大学に譲渡されたのち、CellScript社に独占的ライセンスが付与されました。その後、関連会社であるmRNA RiboTherapeutics社を通して、2017年にビオンテック社とモデルナ社が非独占的サブライセンスを得ました。そして現在、ビオンテック社はファイザー社と、モデルナ社はNIH社と共同で、mRNAワクチンを共同開発しています。
なお、発明者のカリコー博士は2013年にビオンテック社の副社長に就任しています。

3.脂質ナノ粒子に関する特許

脂質ナノ粒子は、MITのロバート・ランガー教授が、RNAなどの核酸がPEGのようなポリマーに包まれている場合、炎症反応を引き起こすことなく核酸を放出することを1976年に発見。その後、ランガー教授はモデルナ社を立ち上げます。ただ、その権利関係は少々複雑です。

〈脂質ナノ粒子(LNP)の権利関係〉

脂質ナノ粒子の特許所有者はArbutus社で、2013年から2016年にかけてAcuitas Therapeutics社にライセンスを与えていました。Acuitas社はモデルナ社にサブライセンスを発行していましたが、2018年にArbutus社からGenevant社がスピンオフし、ビオンテック社にライセンスを発行。その経緯の中でモデルナ社に対するライセンスが特定の範囲に限定されることになったため、モデルナ社はArbutus社にIPRを申請しました。
モデルナ社とArbutus社とのIPRは3件行われ、1件目(US9404127)は全て無効、2件目(US9364435)は一部無効、3件目(US8058069)は全て有効という裁定が下されています。その権利範囲はほとんどの脂質ナノ粒子が含まれるほど広く、モデルナ社は苦しい立場に立たされたといえます。とはいえ、世界でパンデミックが沈静化していない状況下で、モデルナ社に対してただちに差止めや請求がなされる可能性は少ないとみられます。

4.mRNAワクチンをめぐる権利関係

最後に、今回紹介したmRNAをめぐる権利関係を図にまとめました。

〈mRNAワクチンをめぐる権利関係:まとめ〉

mRNAワクチンをめぐる特許は、複数のライセンスや権利が関与することに特徴があります。従来の低分子薬のように一つの特許で保護されるものとは大きく異なり、種々の技術に関する特許をうまく使用することが重要になります。
また、モデルナ社やビオンテック社といったベンチャー的な企業が深く関わっているというのも大きな特徴といえます。mRNAワクチンのライセンス関係や動向には、今後も継続的に注視する必要があるといえるでしょう。

※ 2021年7月21日時点の情報に基づく記載となります

著者プロフィール

鈴木 憲

株式会社パソナナレッジパートナー 東京事業部

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