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コラム

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パソナナレッジパートナーの知財コラム

掲載日:2022.03.31

新型コロナウイルスPCR検査をめぐる特許事情

新型コロナウイルスは世界中に感染が広がり続けています。人類はこの脅威に立ち向かうためにワクチンや治療薬を開発し、医療環境を整えるなどさまざまな体制を構築してきました。今回は新型コロナウイルス対策でまず必要となる検査薬に関する特許について、独自に調査・分析した結果を紹介します。

1.新型コロナウイルスの構造と検査の種類

■新型コロナウイルスの構造

新型コロナウイルスは、球体の外側の脂質二重膜(膜タンパク質(M)とエンベロープタンパク質(E))にスパイクタンパク(S)が突き刺さる形状をしており、内部にはRNA遺伝子(ウイルスゲノム)とヌクレオカプシド(N)というタンパク質が共存する単純な構造です。

また新型コロナウイルスの遺伝子は29,903塩基で構成されており、配列の前半部分 約21,000まではORF1abという生存に必要な酵素類の遺伝子が並び、後半部分にはスパイクやエンベロープ、膜タンパク、ヌクレオカプシドを読み込む遺伝子が順に配列されています。

■新型コロナウイルスの検査方法

新型コロナウイルスの検査には大きく分けて抗原検査、抗体検査、核酸検査(PCR検査)の3種類があります。このうち感染の有無を調べる検査は抗原検査と核酸検査の2種類です。
抗原検査はウイルスの存在をタンパク質の有無で調べ、核酸検査はウイルスが持つ核酸(遺伝子)を調べます。抗原検査の検査薬はキットになっており、検査後すぐに陽性か陰性を判断できます。

一方、核酸検査は専用の機械でウイルスを抽出・反応をさせるため、すぐに結果は出ませんが、抗原検査よりも感度が高く、検体に微量のウイルスしかなくても陽性であることが分かるため信頼性は高いといえます。

2.核酸検査の特許出願IPC分類と出願年月

今回は3種類の中で最も多用されている核酸検査(PCR検査)について調査・分析しました。米国、欧州、中国、WO(世界知的所有権機関)、日本を対象に、「PCR・核酸を用いた検査」と「Sars cov-2」の2つのキーワードを持つ特許を検索しました。両方のキーワードにヒットした特許のうち、新型コロナウイルス関連の初出願があった2020年1月19日以降の特許を抽出したところ272件がピックアップできました。

■発明のIPC分類(上位20位まで)

この272件の発明の主題をIPC(FI記号)別に分類し、上位20位までを示しました。
最も多かったIPC分類はC12Q 1/70です。これは酵素・核酸または微生物を含む測定または試験方法でウイルスまたはバクテリアファージを含みます。2番目はC12N 15/11です。これはDNAまたはRNAフラグメントと修飾物にかかる特許で、核酸検査で使われるプライマーやプローブを発明の主題として出願している特許が多いと考えられます。3番目は動物ウイルスとしてC12R 1/93があがっています。4番目には酵素、核酸または微生物を含む試験方法としてC12Q 1/689 からC12Q 1/68までのIPCが付与されたものが8種類ありました。そして5番目には生物学的特異性を有する配位子結合方法を含む試験(免疫学試験)としてG01N 33/569、543があがっています。

また272件の特許について他国への出願状況を調べたところ、自国のみの出願が245件、WO出願や自国以外に出願があるものが27件と、圧倒的に自国のみの出願が多いことが分かりました。しかし、この中には1年の優先権主張期間が残っているものもあるため、今後WO等他国出願が増える可能性も考えられます。

■各国の出願年月

上のグラフは新型コロナウイルスの核酸検査の特許272件が、どの国でいつ出願されたかを示しています。
最も多く出願されているのは中国で、それにアメリカ、WO、日本、欧州の順で続いています。中国で2020年1月5日に新型コロナウイルスの遺伝子配列を開示し、1月19日に上海同済大学附属同済病院が新型コロナウイルスに関する特許を初出願していました。その後2020年3月から4月にかけて出願のピークを迎え、その後も多くの出願が続いています。

3.核酸検査(PCR検査)のターゲット部位

2021年6月までに出願され成立した新型コロナウイルスの核酸検査にかかる特許の中では、ORF1 abがウイルスを検出するターゲットとして最も多く使われていることがわかりました。ORF1 abの全長は21,000と長いので、さまざまなアプローチができるからだと考えます。2番目はDNA配列が比較的よく保存されているヌクレオカプシドをターゲットとしたプライマーを掲げる特許でした。そしてスパイクタンパク遺伝子、エンベロープ遺伝子、膜タンパク質遺伝子の順になっています。

今回の調査結果で、新型コロナウイルスの核酸検査は中国で先行して多くの特許が出願されていることが分かりました。そして、中国の出願のほとんどは国内のみを対象にしていました。これは新型コロナウイルスの発生地点が中国・武漢であったことから、検体が集まりやすかったことが一因と考えられます。一方、欧米では新型コロナウイルスのみに使えるものより、核酸検査の共通試薬や機器等、もう少し広い範囲での権利化を目指していると推測できます。
今回は成立した特許内容を調査しましたが、出願中のものもまだ多数あり今後も多くの特許が成立すると考えられます。コロナウイルス核酸検査製品開発を検討する場合は、その動向を注視する必要があると考えます。また既に成立した特許が自社製品に使われていないかを確認することはトラブル回避のために重要と考えます。
なお今回は調査の対象外だった核酸検査の共通試薬(蛍光色素や酵素など)や機器類の権利については別途、確認が必要です。

※ 2021年9月22日時点の情報に基づく記載となります

著者プロフィール

村上 美緒

株式会社パソナナレッジパートナー 東京事業部

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