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コラム

知的財産領域で知財管理・特許調査をおこなう
パソナナレッジパートナーの知財コラム

掲載日:2022.03.31

知財情報をベースにしたIPランドスケープ事例

IPランドスケープは、2017年に特許庁が公表した「知財人材スキル標準(version 2.0)」のなかで戦略レベルのスキルとして紹介されました。その後、知財戦略のみならず経営戦略策定に役立つものとして先進的に取り組む企業が増え、今後、大手企業はもちろん中小企業にも広がっていくと予想しています。そこで今回はIPランドスケープの概要と、IPランドスケープの入り口となる知財情報に関する基本的な分析フローとその事例を紹介します。

1.IPランドスケープの概要

IPランドスケープは社内外の知的財産の状況を調査・分析するとともに、マーケットや企業情報と組み合わせることで、知財戦略や経営戦略の策定をサポートする手法です。知財戦略の策定で従来から使われているパテントマップと比較して、集める情報の種類や分析結果の提供先、活用方法が異なります。

パテントマップとIPランドスケープの違い

出典:IPジャーナル「知財戦略とIPランドスケープ)」(2017年12月第3号)より一部抜粋

「パテントマップ」は、先行技術を調査・分析し、知財・R&D・事業部門に対して情報を提供するものです。一方「IPランドスケープ」は、知財情報とマーケット情報を組み合わせて事業環境を分析し、新規事業開発・経営企画部門、経営層に対して戦略を提案するものになっています。IPランドスケープは、これまでの知財業務を行うスキルとともに、他部署との連携や経営層へのプレゼンテーション力も必要になってきます。

IPランドスケープを実行する際には、まず調査対象の知財情報と非知財情報(マーケット情報など)を集め、事業を取り巻く環境を分析します。次にその情報をマクロ/ミクロ分析して指標化し、経営層が的確に判断できる情報として提供します。そして、実行・検証・改善のPDCAサイクルを回すことにより、企業価値を向上させていきます。

2.IPランドスケープの活用事例

今回は、「IPランドスケープとは何か」あるいは「これからIPランドスケープをやってみたい」方々を対象としています。
本来IPランドスケープは、知財情報のみではなく非知財情報を含めて事業環境を分析する必要がありますが、知財情報のみからでも多くの分析、示唆を得ることが可能です。今回はIPランドスケープの入り口として知財情報の分析に的を絞り、基本のフレームワークを使った分析事例を紹介します。

①分析対象の作成

IPランドスケープを進めていくうえで、分析対象の特許集合を効率的に、かつ正確に作成することが必要となります。そのためには、いくつかの商用データベースを用いるのが近道と考えます。
弊社では、パナソニックソリューションテクノロジー社が提供している商用データベース「Patent SQUARE」を活用し、分類やキーワード、及びキーワードの近傍検索、論理演算などを駆使してノイズの少ない精度の高い分析対象を効率的に作成しています。
また、後ほど説明します分析のフローでは、Patent SQUAREに蓄積されている独自指標(KKスコア)を活用し、新たな視点で仮説を立てることも行っています。
Patent SQUAREに限らず、各社の商用データベースでは独自の指標を持つものも多く、分析の目的や視点などに応じて活用することで、仮説を構築する上での精度を高めることができると考えます。

②基本フレームワークを活用した分析事例

ここでは①で作成した特許集合を分析する基本フレームワークを紹介します。

IPランドスケープを実行するための
基本のフレームワーク

基本のフレームワークは「When(いつ)」「Where(どこに)」「Who(誰が)」「How(どのように)」「What(何を)」などの観点で分析する手法です。情報を分析する上での最も基本的な視点、観点となります。Whenでは出願件数の推移を見て製品や技術の成長性を推測できます。Whereでは分析対象の製品や技術の生産国や販売国を確認し、どこの国を重視しているのかを見て取れます。Whoでは製品や技術の出願人を確認できます。Whatでは、どのような製品や技術を出願しているかが分かります。これだけでも多くの情報を得ることができますが、さらにWhenとWhereなどの2つの観点を組み合わせるクロス分析を行うことにより、より精緻な仮説(Why/How)を立てることができます。

以下は、この基本フレームワークを用いて、ある音響製品の競合他社分析をした事例です。

「Who×What」のクロス分析事例

基本フレームワークの中から「Who×What」の2項目を選んでクロス分析すると、「各企業がどんな特許を出願しているか」「各社の製品がどのような特徴を持っているか」が読み取れます。この事例ではA社は長時間使用をアピールし、B社は臨場感、C社はアクティブノイズリダクション(ANR)に注力していることが分かります。

③基本フレームワークと独自指標(KKスコア)を組み合わせた分析事例

最後に基本のフレームワークと独自指標(KKスコア)を組み合わせて分析した事例です。

基本フレームワークと独自指標(KKスコア)を組み合わせると、各企業の知財ポジションを推測できます。まずは基本フレームワークを用いて、ある製品や技術の競合企業を抽出。横軸に企業の知財総合力(KKスコア積算値)、縦軸に技術力(KKスコアの最大値)を取り、権利保有数をバブルチャートで表します。グラフの右上に行くほど市場の中で良好なポジションを確保しているといえます。

「Who×What」+独自指標(KKスコア)累積値を組み合わせた分析事例

最後は「Who×What」と独自指標(KKスコア)を組み合わせた分析事例です。まずは「Who×What」のクロス分析で有力な競合企業1社を抽出。KKスコアの累積値を用いて自社と競合他社1社の製品の機能を比較することができます。

今回はIPランドスケープを始めたいという企業様を対象に、IPランドスケープの概要や独自指標(KKスコア)、基本のフレームワークを使った分析フローを紹介しました。弊社では本日紹介した基本のフレームワークを用いた研修をご用意しています。これからIPランドスケープを始めてみようと考えている企業様はぜひ導入をご検討ください。



※独自指標(KKスコア)とは:神戸大学と株式会社カネカによって開発されたアルゴリズムを使用した、ランキング分析方法(特許第6277789号)。経過情報をもとに「牽制度」「注目度」「出願時期待度」を算出しその合計値がKKスコアとなります。

著者プロフィール

西原 和成

株式会社パソナナレッジパートナー 知財ソリューション事業部長

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