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パソナナレッジパートナーの知財コラム

掲載日:2022.07.26

マスクに関する実用新案の出願増⇒やっぱり特許も多かった!

2020年はコロナ禍の影響により、マスク関連の実用新案登録出願件数が大きく増加しましたが、特許についても同様にマスク関連の出願が多くありましたので、この状況を分析してみたところ、マスク関連出願の件数の増加は一時の”ブーム”であったことがわかりましたのでこれをまとめてみました。

マスク関連出願の近年の出願件数(特許/実用新案登録出願)

2021年8月30日の当社のコラム「コロナ禍により、実用新案の出願増⁉」において、マスク関連の実用新案登録出願件数が増加したことによって実用新案登録出願全体の件数が大きく増加したことを報告させていただきました。

前回のデータ抽出日(2021年8月12日)から10ヶ月を経過した時点で、再度、前回と同様の条件にて、マスク関連の特許出願と実用新案登録出願の件数を抽出してみました。

まず図1では2016年~2021年の、実用新案登録出願全体の出願件数の推移と、マスク関連出願の特許と実用新案について昨年のデータ抽出と今年のデータ抽出(抽出日:2022年6月12日)の件数の推移を表しています。

[マスク関連出願を抽出するために使用した国際特許分類(IPC)]
 A41D13/11 (・身体の特定部分のみを保護するもの ・・保護用の顔面マスク)
 A42B 3/20 (ヘルメット ・・・フェイスガード)
 A62B18/02 (呼吸マスクまたはヘルメット ・マスク)

※実用新案登録出願件数全体の数値は特許庁ステータスレポート2022の各年の数値により作成

特許は出願から1年半経過後に公開されるものが多いため、昨年のデータ抽出の時点では2020年の出願件数の多くが未抽出だったところから、今年の抽出では950件が抽出され、実用新案登録出願と同様に多くの出願があったことがわかります。

一方、実用新案登録出願の件数については、昨年の抽出件数と今年の抽出件数との間で大きな差は無く、昨年のコラムに記載しました通り、実用新案登録出願については出願から2~3ヶ月で公報が発行されるため、2020年の出願傾向を昨年時点で知ることができていたことが裏付けられました。

よって、特許出願に連動して実用新案登録出願にも出願傾向が表れるような分野においては、実用新案登録出願を調べることによって、特許の直近の出願傾向を類推することができるといえます。

マスク関連出願の“ブーム”は一過性のものだった

次に図1の通り、マスク関連出願の2020年と2021年の件数を比較しますと、今年抽出のものでは、特に2021年の特許出願は未公開のものが多くある時期となりますが、実用新案登録出願については前述のように2021年出願の件数も十分に抽出されていると予想され、また特許庁のステータスレポートに示された実用新案登録出願全体の件数も2021年には減少していることから、マスク関連出願は減少していると推測されます。

そこで、これを分析するため、マスク関連出願の2020~2021年の出願について、出願日を各年の四半期毎に区切って出願件数と出願人の数を集計しその関係を図2に表してみました。

※出願年:2020~2021年で集計
1Q=1~3月、2Q=4~6月、3Q=7~9月、4Q=10~12月

まずは、このような集計を行った時の一般的な傾向を例に図2-1に示しています。ある特定の分析対象分野の出願について、出願件数が少なく、かつ出願人の数も少ない時期においては黎明期と捉えることができます。(例では2012年)次に、そこから出願件数が増え、出願人の数も増えてくる、つまり市場参加者が増えて、出願件数が増える時期については①成長期と見ることができます。次に、出願人数が頭打ちになり、出願件数も成長しない時期は②成熟期と捉えることができます。さらに出願人数も出願件数も減少傾向となる時期は③退潮期となります。そして、再び、出願人数と出願件数とが増加傾向を示した場合にはこれを④復活期ということができます。

このようなことがわかるこちらの図を使って、マスク関連出願の実用新案登録出願と特許出願の傾向を分析してみました。

図2-2が実用新案登録出願の傾向で、2020年第1四半期(’20 1Q)を起点としてその点が左下にあります。次に2020年第2四半期(’20 2Q)になると一気に点が右上に飛んでいます。これによって、マスク関連出願は急激に成長したということになります。しかし、2020年第3四半期(’20 3Q)以降、点は左下に徐々に移行していますので、退潮期になっていると見ることができます。2021年第4四半期(’21 4Q)にはほぼ2020年第1四半期(’20 1Q)と同じ位置に推移し、”原点回帰”のような状態となっています。このことからマスク関連出願の増加は一時の”ブーム”であり、そのブームは去っていると見ることができる結果となっています。

図2-3は同様の手法で特許出願についても分析していますが、傾向は実用新案登録出願と同様となっています。ただし、前述のように特許出願については特に2021年の出願については未公開のものがある可能性の高い時期のデータ抽出ですので、図2-3に示した2021年の点群については、さらに将来、データを抽出すると点は図の右上方向に移行することが予測されますが、出願傾向については実用新案登録出願と同様の傾向を示すことが予想され、特許出願についてもマスク関連出願の増加は一時のブームであったのではないかと推察されます。

新型コロナウイルス陽性者数の推移とマスク関連出願の関係

図3には、2020年から2021年までの日本全国の新型コロナウイルスの陽性者数の推移と、マスク関連出願の実用新案登録出願の件数を月単位で集計し、緊急事態宣言の発出期間を重ねて示しています。

※新型コロナウイルスの陽性者数の数値は厚生労働省のオープンデータから

マスク関連出願の実用新案登録出願の件数において、ピークが立っている時期は、新型コロナウイルスの陽性者数が増加傾向になっている時期に少し遅れて発生していることがわかります。そして、これまで4回の緊急事態宣言が発出されていますが、回を経る毎に件数のピーク値が減少していることがわかります。特に4回目の緊急事態宣言の後には、その件数が緊急事態宣言の発出に呼応して増加はしていないように見えます。
このことからマスク関連出願件数が減少している理由については、新型コロナウイルスに対する日本社会全体の危機感が減少してきた傾向に一致しているように推測されます。

マスク関連出願の出願人傾向

表1と2には2020~2021年のマスク関連出願の実用新案登録出願と特許出願の出願件数が多い出願人の上位者(社)を示しています。

図4には2020~2021年のマスク関連出願の実用新案登録出願と特許出願の出願件数が2件以上の出願人について、一出願人を1つの丸○で表し、マスク関連出願の件数を色の濃さ、その出願人のデータ抽出時点のデータベース(Patent-SQUARE)内のその出願人の特許出願と実用新案登録出願の全件数を丸○の大きさで表したものを示しています。
また、図5はそれについて、全出願件数の丸○の大きさを、実用新案と特許とで合わせたものを示しています。
これを見ますと特に図5からは、特許については大規模出願人よる出願が多く見られる一方、実用新案登録出願については小規模出願人が多いことがわかります。

※Tableau(タブロー)により作図

前記の表1,2や図4、5の中で特徴的なところとして、大日本印刷株式会社様が特許と実用新案登録出願について同数の出願をされている点が挙げられます。
表3には同社のマスク関連出願の特許出願と実用新案登録出願の書誌情報を出願日別に降順に表示したものを示します。

出願時期によって、特許や実用新案登録出願をまとめて行っている、というより、時期を分散して特許や実用新案登録出願を行っていることがわかります。また、発明/考案の内容によって、特許出願と実用新案登録出願とを使い分けていることが推察され、特に実用新案は物品の形状、構造又は組合せに係る考案を対象とするものに対して、特許出願では製造方法や使用方法についての出願がなされていることが発明の名称欄の記載からもわかります。

むすび

昨年と今回の2回のコラムを通じて、コロナ禍において、マスク関連出願が増加することによって、実用新案登録出願の件数が増加したという稀有な状況を分析してみました。
マスク関連出願のブームは終息した感がある中、コロナ禍は収束の状況をまだみない状況であり、マスクを外した生活ができる日に、1日も早く戻れることを願ってやみません。

著者プロフィール

戸田 俊之

株式会社パソナナレッジパートナー 大阪事業部 部長(兼)知財ソリューション事業部 グループ長

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